大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和35年(う)556号 判決

被告人 田島民雄

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金三万円に処する。

右の罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

検察官の控訴趣意及び弁護人の同趣意第一点について。

原審は、被告人に対する本件業務上過失致死の事実を認定し、これに対し刑法第二百十一条前段を適用の上、所定刑中懲役刑を選択するとして被告人を懲役六月に処することとしていること記録上明らかである。しかし刑法第二百十一条には法定刑として三年以下の禁こ又は千円以下の罰金の両刑が定められているだけで、懲役刑はおかれていない。従つて原審は、法定刑にない懲役刑を選択処断した違法を犯していることになるので、原判決にはこの点において明らかに法令適用の誤が存するのであるが、原審が、かく懲役刑を以て処断することとしたのは、本件につき禁こ以上の刑に処するのを相当と認めた趣旨であると解されるところ、裁判所法第三十三条第二項によれば、簡易裁判所は、同法条第二項但書に掲げる罪にかかる事件以外の罪については禁こ以上の刑を科することができず、右の制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは刑事訴訟法第三百三十二条により事件を管轄地方裁判所に移送しなければならないのであるから(裁判所法第三十三条第三項)、同法条第二項但書に掲げる罪にかゝる事件に当らない本件においては、原審としてはすべからく同法条第三項、刑事訴訟法第三百三十二条に従い本件を管轄地方裁判所に移送すべきであつた。然るにことここに出でなかつた原判決は、明らかに科刑権の制限規定たる裁判所法第三十三条第二項にも違反している。(なお刑事訴訟法第三百三十二条違反も考えられるが、右違反は副次的なものに過ぎない。)而して右のような科刑権の制限違反は、いわゆる訴訟手続の法令違反に当らないのは勿論、管轄違の誤にも当らず(昭和三十年十二月二十日最高裁判所第三小法廷判決、刑集第九巻第十四号第二九〇六頁及び昭和三十五年二月四日同裁判所第一小法廷判決参照。)、これを法令適用の誤に当ると解するのが相当である。従つて原判決には、法定刑にない懲役刑を選択処断した違法が、同時に、科刑権の制限を超えた違法を犯したことになり、右各違法はいずれも判決に影響を及ぼすべきこと明らかな法令適用の誤というべきであるから、論旨は結局いずれも理由あることに帰する。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 青木亮忠 木下春雄 中村荘十郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例